とうとう開店してから初めての赤字が出た月の事、月子は原田に言った。
「お父さん、今月ね、女の子達の給料払えない状態なの…何とかしてくれない?」
「……」
原田はうなだれ、いい返事をしなかった。
何故なら…その頃から、原田の財産に異変が…底が見え始めていたのだった。
定期預金も保険も全て解約され、印刷会社は火の車、家では夫婦喧嘩が絶え間なかった。
女をつくった原田に対し、妻は怒り憎しみ…その瀬戸際にとった行動は賢いやり方だった。
あまりにもどんぶり勘定になった原田に対し、妻もこそこそと別通帳を作り、ヘソクリ財産を増やしていった。
いつ、原田と別れる事になっても大丈夫な金を貯めていった。
女にボケた男に、妻の行動なんて把握出来る筈がなかった。
従業員の給料支払いにと、月子が原田に頼んでいた金、月末がきても、原田は一向に振り込む様子がなかった。
実際、底をついた原田自身があちこちで借金をしている状態だった。
その返済期日が回ってきているのに…月子の売上補充どころではなかった。
「お父さん、いつ?いつまで待てばいいのよ?」
「もう少し待ってくれ」
原田はこのセリフで逃げ切った。