兄貴幹部が、まだしつこく言う。
「ここには、お前の気に入った女いねぇみたいだな、修二よ、いいとこ、予約入れてあっからよ、そんじゃそこいらの女と違う、一流のモデル並ばっか集めた店よ」
修二は愛想笑いでやんわり断る。
「兄貴、気持ちだけは有り難く頂いときます。すんません、ちょと今から用事が…」
「変わった男よの、出てきた奴は皆、女に飛び付くってぇのに、それとも…待ってる女、いんのか?」
「いぇ……そんな……」
「まぁいいさ、好きにしな、今日からお前は自由なんだし、しゃばの空気、存分に楽しんでこいよ」
「はい、ありがとうございます」
「修二、付き添い呼ぼうか?」
「いえ、結構で、兄貴、大丈夫です」
「そうか、稲田には気を付けろよ、あちこちうろうろしてっからよ」
「はい、わかりました」
修二は皆と別れ、やっと一人の身となった。
修二は歩く、しゃばの世界を一歩一歩…向かう先はさくら通り。
さくらは九分咲き…あと少しで満開だ。
ちょうど、月子と知り合ったのもこの季節だった。
記憶が鮮明に甦る。