月子の兄、三山和男の家のインターホンが鳴った。
深夜過ぎの事だった。
「はい」
こんな真夜中に、な、何だ?不謹慎な奴もいるもんだと、低い声で和男は応答した。
「お兄ちゃん、私…」
「龍子か?どうした?」
和男は慌ててドアを開け、月子を家に入れた。
「ごめんなさい、こんな時間に…皆、もう寝てるよね?」
「龍子、何があった?」
月子はいきなり兄に抱きついた。
「お兄ちゃん~」
声を出し、しゃくり上げて泣く月子。
この世でたった一人の肉親の胸…月子にはもう兄しかいなかった。
「龍子、誰に何されたんだ?兄ちゃんに言え!もう、そんな仕事やめてしまえ!ずっとここにいろ!」
兄は頗る興奮した。
「違うのよ、お兄ちゃん違うの、私、誰にも何もされていない、そんな事じゃないのよ」
和男の嫁、さおりが何事かと起きてきた。
「龍ちゃんどうしたの?」
さおりはいつでも優しかった。
夫婦を目の前に、月子は喋り出した。
「私ね、ある人を好きになって…その人も、私の事が好きで…」
兄の目つきがきつくなった。