《殴られなくて良かった。》

気分を一掃させる為に
濡らしたタオルで顔を
拭うと気を取り直し、

エリオットはタイを整えて
フロアーへ出た。


店内は光に映える
きらびやかな装飾で
入店が早かろうが遅かろうが
常に夜の気配が漂っている。


客の入りも既に上々だ。


いつもの様にバカラ、
ブラックジャック、ポーカー
ルーレットとテーブルを
順に廻る‥


丁度、ルーレットの
テーブルを廻っていた時だ。


通りかかったエリオットの
制服の裾の辺りを引っ張る
者がいた。


ハッとして目を向けると

柄の部分が金色のステッキに
体を預け、此方に向かって
媚びを売る様な目で
老紳士が上目使いに
見上げていた。


『お客様、ご注文で
ございますか?』


『あぁ、マティーニを頼む‥
ドライのな‥。』


『畏まりました。』


『あー、ちょっと待て!』


『はい、他に何か‥』


『儂はさっきからずっと
負け込んでおる‥。

ここらでツキを呼び込み
たいんだが‥。

どうだね?
君も賭けてみないかね?』


『お客様、申し訳
ございませんが、
店の者が賭ける事は
禁止されております‥』


エリオットは嫌な
予感がした。