遂にルーレットは回り始めた。


《そうだ!これは
頼まれたんだ!
それに負けても僕には
失う物は無い‥》


心の中の黒いタールに
真っ白な羽を降らせて
覆い隠そうとエリオットは
自分に言い訳し続けた。


ここで無理に止めて
騒ぎになった挙句に
クビにされては堪らない。


ルーレットはBetの
締め切りを告げる
最終のベルを鳴らした。


もう後戻りは出来ない。


今、自分の発言に因って
一人の人物の人生が
大きく変わろうとして
いるのだ‥


不意に老紳士が穏やかな
声でポツリとエリオットに
囁き掛けた‥。


『そうだ‥君に言い忘れた
事がある‥。

儂は今、儂の全財産を
ここに総て賭けた。

見たところ‥君には
賭ける物は何も無さそうだ‥。

ならば‥たった一つ。

君には‥君の命を賭けて
もらおう‥。』


エリオットは老紳士の
耳を疑う様な言葉に

高層ビルの屋上の縁に
立たされた様な目眩を
憶えた。


背中に得体の知れない恐怖を
感じながら‥


足がすくみ、声も出せず、
トレーを持つ手がじりじりと
痺れ、ジットリと汗ばむ。


エリオットは、その場に
辛うじて立っているのが
やっとだった。