秦利は人混みをかき分け、
少年を追いかけたが、その姿を
見失ってしまった。

「…秦利?」

「ずっと…探してたんだ……」
秦利は言った。


その頃、西地区で1人の若い女が
秦利を捜していた。

眼鏡をかけ、冴えない顔立ちを
しており、慣れない西地区で懸命
に秦利を捜していた。

「すみません…この写真の子、
何処かで見ませんでした?」
彼女は拳の所へ訪れていた。

「あ…私、菊永と申します。
東地区の養護施設の者です…」
菊永は言った。

写真に写っていたのは秦利の姿
だったが、拳は首を振った。

「…どうかしたんですか?」拳
は尋ねた。

「多分、秦君はこの子を捜しに
来たんだと思います」

もう1枚の写真には笑顔の少年
と同じように笑う秦利の姿が
あった。

「……2人は本当の兄弟みたい
に仲が良かったんです」


ずっと黙ったままの秦利の後ろ
に想も黙って座っていた。