泉の手が男子生徒の手を弾くより早く、桐野の手がそれを掴み、泉の肩から剥がさせた。

「代谷は極度の恥ずかしがり屋さんなんだよ。なっ代谷?」
(ん―――…なっ!?)

 あんたまでなにを言うんだ、と言いそうになったところで桐野のウィンクが飛んできた。

 泉はすぐさま彼の合図の意味を読み取った。
 読み取った、けれど……

 そんなこっぱずかしいこと、いくら嘘だとはいえ認められるか―――! 

 と反発しそうになったところで。


≪代谷さん、ここは我慢だよ…!≫

 
 不意に隣から聞こえてきた"声"。

 泉は唸るようにしぶしぶアゴを引いた。

 こんな屈辱ってない、と泉は思った。

 ……覚えてろニキビ、明日の宝探し、朝一番で転(こ)けさせてやるからな。

 朝露残る草原で思いっきりうつ伏せに倒れ込む男子生徒を想像し、泉はふふふと腹の底で黒い笑みを浮かべた。

「俺のでよかったら何遍だって教えてやるぜ」
「いらねぇよっ! つかもう知ってるし」
「え~。そんな嫌がんなって」
「嫌がるっつーんだよ! 離れろ、野郎に興味ねえっ」
「いけずなやつめ。じゃあな、代谷、栗原。なぁ、教えてやるって~」
「だからいらねえって!」

 今のうちだよ、と佳乃が目で合図したのには素直に頷き、足早にその場をあとにした。