と、言われる人が犯罪に手を染めるケースも少なくないのが現実なのだけれど―――

 などと、一昨日見た暴力事件のニュースを思い出し、複雑な気分にひたっていると、不意に佳乃と目が合った。

 瞬間、"声"が、泉の中に流れ込んできた。
 だから、今度はちゃんとわかった。

 佳乃ははっきり、違う、と泉に向かって主張していた。

 首を振り、口から届く言葉はなくても、泉にはちゃんと"聞こえて"いた。


《私、隠してなんかない。信じて、代谷さん!》


 訴えかける響きに、偽りは感じられない。

 しかし、だからといって佳乃の言葉を正として、千紗たちの言葉を誤と決めつけることはできなかった。

 そうできれば心はずいぶんと楽になるはずなのだけれど、どちらの言い分も真実に聞こえてならないのだ。

 困ったな、と泉は口の中で低く呻いた。

(どうしよう。完全に挟まれた)

 千紗響子組につくか、佳乃の味方につくか。

 決めかねていると、ふたたびじわじわと佳乃の目が赤くなってきた。

 これっぽっちも寒くないのに、背中にじわりと汗が浮かんだ。

 ……しょうがない。

 悩みに悩んだ末、仕方なく泉はある提案をした。


「男子のところに行って、財布なかったか訊いてくる」


 もしかして、自分でも気づかないうちにポケットに入れてたって可能性だってあるでしょ。