(―――まずいっ!)

 泣かれるのだけは勘弁して欲しい。
 めんどくさいが口癖の泉にしてはめずらしく、慌てて二人の間に割り込んだ。「―――ちょっと千紗」

「なによ泉」
「それ言うなら私も疑ってるってこと?」

 不愉快そうに眉根を寄せると、千紗ははっとしたように目を見開き、そ、それは、と言葉を濁しながらやがて口をつぐんだ。

 痛いところを指摘されて黙する千紗に、ほっと安堵の息を一つ。

(泣いてる女ほどめんどいものってないんだよね……)

 よりによって佳乃である。

 万が一にも先生にちくられてお説教でも喰らう羽目になったら―――考えるだけで頭が痛い。

 それならば口を挟むことのほうが労力は少ない。

(こういうの、柄じゃないんだけど)

 胸の内で愚痴をこぼしつつ佳乃を見ると、少女は今にも泣きそうな顔をしていた。

 さりげなくフォローしてやったのに、さりげなさすぎて気付いていないらしい。

 苦しそうに結ばれた唇が震えている。

 あの顔があとほんの少しでも歪んでしまったらきっと、そのときはあの目から涙がこぼれてしまうだろう。

 それだけはなんとしても阻止しなければ。

「そういえば、二人がこの部屋に残ってたよね。私たちが出てってから誰かきたりしなかった?」

 態勢を立て直そうと放たれた響子の声だが、どうにも固い。不自然なほどではないが、その響きには無理がある。

 まさか泉が口を挟んでくるとは思いもしなかったのだろう。

 彼女たちの表情に、露骨な苛立ちは窺えないけれど、一瞬でも、邪魔だ、入ってくるな、と頭に来たのは、眉の微弱な動きから読み取れた。

「来なかった」
「そう」

 だけど、私たちじゃないよ。

 とまでは言わなかった。

 ここでさらに彼女たちを逆撫ですれば、今後の彼女たちとの付き合いが面倒なことになることは目に見えていたから。

(さあ、どう来る)

 何も言えない佳乃。

 泉は慎重に次の言葉を待った。