千紗に呼ばれて、びくっと今までで一番じゃないかと思われるほど大きく佳乃は肩を揺らした。
 ぎしぎしと油の足りないロボットのような動きで振り向いて、

「栗原さんて、わたしらが男子の部屋行ってるときもココに残ってたよね」

 畳を指して尋ねた千紗の一言に、途端、佳乃の顔からさぁーっと血の気が引いた。

 彼女が何を言いたのか、ようやく理解したのだろう。

 どうやら、自分が疑われているようだと。気づくのが遅すぎである。

 次の瞬間、佳乃は首が外れるのではと思うほど豪快に首を横に振った。

「ち、違うよっ。私じゃない。私じゃないよ!」

 震える細い声をなんとか絞り出して抗弁するけれど、千紗本人はまったく聞き耳を持っていない様子だ。
 
 見つめる険のある眼差しが疑惑と非難とを孕んでいるように佳乃には映るのだろう。


 佳乃の目にうっすらと涙が浮かんだ。