「やっぱないよー! 響子ぉ、どうしよう。先生に言ったほうがイイかな」

 涙声になりながら千紗が悪友を振り返る。

「そんな大袈裟にしちゃまずくない? 時間も時間だしさぁ。―――ねえ、泉はどう思う?」
 
 うわ、私にまで訊くんだ。

「さすがに10時回ってるから微妙だよね。―――ちょっと聞いていい?」

 前髪を上げるためのぞき込んでいた鏡から顔を上げる。

 なに? と振り向いた千紗、泉は思わず噴き出しそうになって咄嗟に口を押さえた。

 びっくりするほど千紗の顔に焦りの色がうかがえなかったのだ。

 とても財布を無くした直後とは思えない。

 隠そうとしたところで隠しきれない感情。悲しみとは正反対の、現状を愉しんでいるという高揚感。

 騙された挙げ句、自らが貶められているということにも気付かず、佳乃は馬鹿の一つ覚えのように財布を探し続ける。

 まんまと彼女たちの企みにはまった操り人形のごとき佳乃を見物し、嘲る二人。

(……つーかさ)

 がさがさと音を立ててなおも鞄を漁り続ける佳乃に一瞥をくれ、泉は心で突っ込む。

(ちょっとは怪しめよ)

 すこしずつ佳乃に対しても怒りが湧いてきた。

「怒らないでね。……そもそも、財布なんて持ってきてたの?」
「持ってきてたよ! なによー。泉は私を疑ってんの」
「そうじゃないけど。どこにも持ち出してないのに消えるなんて不自然だなって思っただけ」
「それ私も思うわぁ。千紗、ちゃんとカバンよく探した?」
「ちょっ、響子まで言う!? 二人ともひどー!」

 嘆く千紗。財布が消えることよりもよほど不自然な響きで、泉はたまらず隠れて肩を揺らす。

  
「ねえねえ栗原さん」