−"あたしはななです。
きょう、3さいになりました。
あしたから、ほいくえんに行きます。"
そうかそうか。おとうさんもおかあさんも、たんぼや畑のお世話が忙しいからね。
−"まいにち、ほいくえんからかえってきたら、ちゃんと来ます。"
うん。
ななちゃん。きみのお話し、どんなお話しも聞くからね。
泣いたっていいんだ。
誰かに怒るのだって、わたしときみの秘密だから大丈夫。
−"かおなしさま。ななを幸せにしてやってください。わたしらの、この家の、たったひとりの子供です。"
おばあちゃん、わたしにはそんな力はないんだ。知ってるでしょ?
でも、ななちゃんがいつも笑顔でいられるように、お話しのお礼をちゃんとするからね。
−"ばあちゃ、ばあちゃ、みて!"
次の日の朝。
おばあちゃんに言われてわたしのところに来たななちゃんは、大喜びで走って帰っていった。
ふふ、お礼、気に入ってくれたみたい。
−"まあまあ。これは、お花の種だよ。かおなしさまにいただいたの?"
−"うん!ホコラの前に、あったの!"
そう。これがわたしのお礼。
いろんなお話しのお返しに、わたしは花の種を贈る。
もっとも、この百年くらいはお話しが少なくて、お礼をするだけの力がなかったから、おばあちゃんにはあげたことがなかった。
ごめんね、おばあちゃん。
ななちゃんの顔を見たら、どうしてもお礼がしたくなったんだ。
でも力はやっぱり足りないから、種は一粒だけ。
−"かおなしさまによくありがとうを言って。それから、種は大事に育てるんだよ。"
−"うん!"
ななちゃんはそれから、保育園から帰ったらすぐにわたしに会いに来てくれた。
毎日毎日。
いろんな友達の名前。通園バスのこと。あの子とケンカしたの。仲直りしたよ。
田植えをお手伝いしたこと。おとうさんとおかあさん行った、都会の遊園地。
ああ、ななちゃん。
生まれてきてくれてありがとう。
きみの可愛いお話しを、いつまでも聞いていたい。
ずうっと、ずうっと。
−"あのねかおなしさま。
さいきんおとうさんとおかあさんとばあちゃん、よくケンカするの。
よくわかんないんだけど、おとうさん、《ノウキョウノセイネンカイカラシュッシシテ、ベンチャーキギョウをタチアゲル》って言うの。
おかあさんはさんせいで、ばあちゃんははんたいなの。
おとうさんたちは、《ななにしょうらいくろうさせたくない》っていうんだ。
ばあちゃんはね、《せんぞだいだいまもってきたたはなをあらすのか》って怒るの。
かおなしさま。あたしいやだな。
ケンカするの。"
ななちゃん、ななちゃん。
三人とも、きみが可愛くてしょうがないんだね。
ななちゃんが幸せになるように、みんなウンウン悩んでるんだよ。
ケンカはよくないけどね。
ななちゃん、ケンカはやめてって言ってみたらいいよ。
みんな、幸せになりたいだけだもの。
きっと仲直りできるからね。
…ああ。次の春から小学生!
きっともっといろんなこと、お話ししてくれるんだね。
−"かおなしさま。
あたし、いもうとかおとうとがほしいの。
保育園のみんなは、いっつもきょうだいのはなししてるの。
みくちゃんは、来年からおとうとも保育園にくるんだって。いいなあ。
でね、おかあさんに、言ってみたの。
あたしもおとうとがほしいなって。
そしたらね、おかあさん泣くの。
ぽろぽろなみだが出てね、
《おかあさんは、もう赤ちゃんがうめなくなっちゃったんだよ》
っていうの。
あんまりおかあさん泣くから、あたし、
わかった、もう言わない
って約束したの。
…約束したけど、やっぱり、ヒトリッコはいやだなぁ。"
ななちゃん、ななちゃん。
わたしもななちゃんの妹や弟、いたらいいのにって思う。
そうしたらもっとお話しも増えるのにね。
…そういえばおばあちゃんが、おかあさん、お産が重かったって言ってたっけ。
仕方ないことだね。
でもきっと、これは天の偉い偉い神様が決めたことだよ。
ななちゃんだけを大事に大事にしなさいって、おっしゃってるんだよ。
だから、ななちゃん。
みんなの愛を感じられる子になるんだよ。
神様が、きみだけを愛するようにさだめてくださったのだから。
ああ。わたしがあげた種、毎日ちゃんと花壇に植えてるんだね。
祠の真正面!
もうすぐ春だよ。
満開の花壇が、待ってるよ。
−"かおなしさま。
すごいんだよ!
おとうさん、シャチョウになったんだって!
《ユウキヒリョウダケデつくった野菜を売る》会社なんだって。
けんちゃんのパパも会社にはいってるんだよ。
コウドウリョクがあるから、ってうちのおとうさんがシャチョウになったの。
《アトツギガイナクテモ、ショウライなながムコトリナンカデクロウシナイヨウニ》
って言ってる。
よくわかんない。
おかあさんはすごくうれしそう。
ばあちゃんも、《ななのためになるなら》って言ってた。
あ、かおなしさま。けさ、いっこ芽がでたよ!"
ななちゃん、ななちゃん。
よかったね。
社長だなんて、すごいなぁ。
ななちゃんたちは、これからお金もちになるかもね。
おばあちゃんも認めてくれたんだね。
やっぱり、みんな、ななちゃんのためなんだよ。
これでもうケンカしない。きっと。
最初の芽が出たんだね。
去年植えた種は、みんな枯れちゃって、ななちゃん泣いたよね。
イキモノは大変。
育てるって難しいでしょう?
今年はうまくいきますように。