すごく緊張している。
真新しい制服
真新しいサンダル
そして───
「今日は、皆さんに新しい
クラスメイトを紹介します。」
夏川先生が喋ると
教室がザワザワした。
ドキドキが
ヤバい…
「どうぞ、入って下さい。」
夏川先生はやっぱり
大人だ。
落ち着いた声が
私の耳に届いた。
口の中に溜まっている
ツバを飲み込んだ。
教室の中へと
足を踏み入れた。
「大川 美依亜さんです。
皆さん、仲良くしてくださいね。
えーっと…席は…
石井 永斗くんの隣に
座ってください。」
夏川先生は
私をクラスに紹介した。
永斗くん…??
男の子だ…───。
夏川先生に言われた通り
石井くんの隣に座った。
「初めまして、
石井 永斗(いしい えいと)です。
よろしくね!」
石井くんは
白い歯を見せて
人懐っこい笑顔で
話しかけてくれた。
でもやっぱり
まだ私には
怖くて…
身体がビクついてしまった。
「よろしくお願い
します。」
少しかたくなって
しまった。
休み時間になると
夏川先生は
教員室に行ってしまった。
転校生には興味がないみたい。
少し安心して
本を読み始めた。
「大川さん、
うち、大海 愛菜(おおみ あいな)
って言うん。
仲良くしよな!」
大海さんは
関西弁ペラペラ
の女の子でした。
とっさに椅子から
立ち上がり、頭をさげた。
「はい。
よろしくおねがいします」
愛菜は
最初キョトンとしていたが
次第に笑い始めた。
「大川さん、
おもろいなぁ〜」
恥ずかしくなって
顔が真っ赤になってしまった。
「そ、そんなことは…
ないです…。
大海さん」
言葉を詰まらせながら
言うと愛菜は困ったような
照れたような顔をした。
「大海さん、じゃなくて
愛菜って呼んでな??
自分じゃない気がするねん。」
私はおどおどした。
「す、すみません…
私のことも、美依亜って
呼んでください。」
私の一番最初の友だちは
愛菜だ。
本当は、苗字でさん付けで
呼びたいのだけれど、
愛菜が“愛菜”と呼んで欲しいと
言うから私は愛菜と呼ぶ。
私はあの事があってから、
男性恐怖症だけではなく
人を信じるのすら
怖くなってしまった。
「愛菜っ!」
上手に名前を呼べない。
私はいつからこんなに
不器用になってしまったのだろうか。
「どしたん??ってか
名前で呼んでくれたんやな!
おおきにー」
愛菜は優しい。
私はそう思った。
「愛菜ずるーい」
その声がしてから、
ほんの少ししか経ってないのに
私の身の回りには人が集まっていた。
「大川さんっ!
よろしくね」
愛菜も元気で明るい女の子
だけれども、今の女の子も元気だ。
私にはないものを持っていて
私は羨ましくなった。
「よろしくお願いします…」
最後の方は声が小さく
なっていた。
「美依亜が可哀想やないか!」
愛菜は優しく私の肩を抱き
私のフォローをしてくれた。
愛菜のおかげで少しだけ
落ち着いた気がした。
愛菜は私のことを守ってくれるのかも
しれない。
でも、また裏切られたら…
って思ったら、怖くなった。
「うるさい」
私の身の回りにたくさんの
人が集まっていて賑やかだった。
それが一瞬で静かになった。
「大丈夫か??」
それは恐るべき人からの言葉だった。
「なんや!永斗」
愛菜の声がした。
それは
隣の席の男の子の
石井永斗くんだった。
「大川さん、みんなに
言い寄られて困ってるように
見えた」
きっと不器用な男の子なのだろう。
そっけなく、言い捨てた。
でも私は、男性恐怖症。
怖いんだ。
何か考えてる…
じゃなかったら私に
助け舟を出したりしない。
どうしてだろう。
やっぱり…
私を呼ぶ声がする。
優しく苗字を呼ぶ。
優しく名前を呼ぶ。
そんな風に呼ばないで。
私の過去が語りかけてくる。
“男なんて、みんな同じ
また、あなたを傷つける”
だめだ。
呼吸が上手く出来なくなってきた。
「…っ、はぁ…っ、はぁはぁ」
あぁ。だめ。
転校初日に発作が出るなんて
思いもよらなかった。
「美依亜??」
愛菜の声がする。
でも、だんだん遠くなってきた。
もう誰の声も聞こえない。
「大川!」
音が消えてく最後の瞬間に
夏川先生の声がした。
目が覚めると白い壁と
白い蛍光灯が私を見つめていた。
「目が覚めた??」
その声がして体を起こした。
でもまだ頭が
ぼーっとしてる。
「はい。すいません」
声の主に謝って、
ベットからおりた。
「いえいえ。
君は、転校生の大川美依亜さん
ですね。」
声の主は白衣が似合う
ハスキーボイスで、
綺麗な女の人でした。
「はい」
静かに答えた。
「私は保険医の
水川るい。自己紹介はこの辺にして、
私、大川さんに聞きたいことがあるの。
いいかな??」
保険医の水川先生が少し
重い空気で私に聞いた。
「どうして、倒れちゃったの??」
やっぱりそれ聞かれるよね。
私は言い逃れは出来ないと思った。
それと同時に
少しでも気持ちが楽になれば
いいと思った。