きっかり30分経ったとき、裁縫番はリジーの為のベストを手にして現れた。
表面は市松模様、背面は無地の黒、生地はシルクのそのベストはリジーの天鵞絨の毛皮によく映える。
裁縫番は気を利かせ、そろいの生地で黒ズボンも拵えてくれていた。

受け取ったリジーは黙って着込んでいく。

それを視界に入れた少女は、自分もベッドに用意されていた袖の無い外套を羽織った。
少女の外套の生地は上等な綿と絹、真っ黒な中で裾と立てた時に見える襟の裏だけがリジーと揃いの市松模様になっている。
一度くるり、と姿見の前で回って確かめると満足気に精緻な作りの貝釦を止めていく。


鞄は革製の小さなトランクだ。
中には先程用意された傘やら寝袋やらサンドウィッチやらが入れられている。
リジーは鞄の代わりにラジオを肩から斜めに掛けていた。
いつも聞いているラジオに、裁縫番に頼んで革製のベルトを付けてもらったのだ。

招待状はラジオの放送、ラジオを持って行くのは必須。

先に戸口に立った少女に駆け寄る。
ずらり、廊下に並ぶのは屋敷で働く番人達。


「行ってくる。」


少女の言葉に応える様に、ギィィ…と小さく音を響かせ扉が開く。