連れてこられたのは屋上。



天気もよく屋上は心地よい風に包まれていた。



尚は黙って掴んでいたあたしの腕を放して、屋上の手すりに寄りかかってズボンのポケットから煙草を取り出した。



……煙草吸うんだ。



長い指先は器用に煙草を1本取り出して口に銜える。



火をつけているところでさえ見とれてしまった。



「ん?……何だ?煙草の煙嫌か?」



いつまでも見ているあたしにキョトンとしたように尚は聞いた。



「あ、ううん。平気」



慌てて首を振って尚の隣に歩み寄った。



すると柑橘系の香りが漂ってきた。



……尚の香水だ。



ふとそう思っていると、尚が口を開いた。



「怪我……どうだ?」



怪我?


あぁ……この怪我の事か。



思い出して包帯が巻かれた手のひらを見つめた。



「そんな傷深くなかったし。大丈夫だよ」