渡里 Side



尚が美麗ちゃんを連れて教室を出て行くと、机に頬杖をついた成月が独り言のように呟く。



「なぁーんか尚……最近からかいやすくなったよなぁ」



その独り言にオレは答える。



「確かにね。今までは常に警戒心持ってて、オレ達でも近寄らせなかったもんね」



そう……。



尚は常に人を警戒して、ずっと一緒にいたオレ達にも一線引いていた。



それはどんなに頑張っても、オレや成月にはその線を越えることはできなかった。



だから一緒にいてもどこか他人のようで。



心に穴が開いてる感じがした。



今思えばオレ達も尚に一線引いていたのかもしれない。



無意識のうちに信頼する人から、尚もオレ達も離れて行ったのかもしれない。



すれ違いから生まれた線だったんだって最近思うようになった。



でも今は……それがない。



尚の警戒心もオレ達の違和感もない。



「……全部美麗ちゃんが変えたんだね」