彼女になっても
越えられない壁があった。
あたしだけは。
そう思ってたのに。
果たせなかった。


愁斗の悲しみをぬぐうには
あたしの両手は
小さすぎた。


彼を救いたかった。
寂しそうな瞳を
苦しみから守ってあげたかった。


気持ちは誰よりもあるのに。




「あたしには、無理だよ。愁斗を見守る事は出来ても、救う事はできない。」


傷付いた彼の顔を見ると
余計に涙が溢れた。



「ごめん…ね。」


そして彼女を見た。
羨ましいあの人。
きっと彼女は愁斗の壁を越えた人なのだ。
分かる。肌で感じる。
女の勘というやつ。

でも良かった。





彼は壁の向こうで
ひとりぼっちじゃないのね。



涙の向こうで
彼の姿がにじんだ。