『もしもし?』


久々に聞く上ずった声。
少し違った風に聞こえるのは
彼女が変わった訳では
ないと思う。
自分自身に
舌打ちをしたい衝動に駆られたが
思い直して気持ちを押さえる。


「つぐみー?なにー?」

つぐみは前に付き合ってた
他校の女。
典型的なお嬢らしくて
かなりお人好しで
多分俺が初めての男。


『あの…。話したいの。もう一度会って欲しくって。ごめんなさい…しつこくて。でも……。』


正直な話
参ったなと思う。

つぐみにはちゃんと
別れを告げたはずだし
彼女も納得した様子で
またどこかで会いましょう。
なんて言ってたし
もう終わった物だと思っていた。


ちょうどチャイムが鳴って
帰宅する生徒達の声が
下駄箱に近付いてきた。

下駄箱に預けていた体が脱力して
ズルズルと座り込んだ。


「つぐみ。だから言ったろ…?ホントに悪いけど俺…。」


『分かってるの。…好きな人が…出来たんでしょ…?』


震える声が聞こえる。
こんな場面何度あっただろうか。
いつも適当に受け流してきた。
だけど今回はなんだか
罪悪感を覚える。

いままでの
好きな子が出来た。
は別れるための口実だった。
だけど今回の
好きな子が出来た。
は本当。
だからこそ
悪いとおもう。


『啓君が幸せになれるならって自分に言い聞かせたけど…やっぱり…啓君が忘れられないの。』




雪崩のように押し寄せる生徒の中にまじって
愁斗と葵が歩いてくるのがみえる。