「今でも、頭の中から離れないよ。

彼女の笑顔と・・・そして、俺がナイフで襲った時の、あいつの目。

怯えていて、でも、ちゃんとようやく自分が何をしてしまったのか、気づいたようで。



・・・気づくのが、遅かったんだ」





あたしは、両手を顔の前で握った。
震える手が、止まらない。

止まってよ・・・止まってよ・・・。

ふと、マスターの左手が伸びてきて。
あたしの震える手を、ぎゅっと包み込んだ。



「ごめんね。
君は、何も関係ないから。
何も、背負い込むことはない。
君にこんな話をすること自体が間違ってた。

・・・悪かったよ」



「・・・マスターは」




震える手から、彼の体温が流れ込んでくる。
あたしはしっかりと顔を上げた。

彼の目を、逸らさずにみる。

真っ直ぐと。



「マスターは、今でもギンを憎んでいますか??」



彼は、少し驚いた顔をして。また、微笑んだ。



「・・・そうだね。
完全に大丈夫とは言い切れない。
でも、少なくともあいつは反省してる。

彼女も・・・エルも、きっと分かってくれてると思う。

あいつがこの2年間、どれだけ苦しんできたか。


俺はとっくに、あいつを許したつもりだったんだ」