「君は何に興味があるんだ?」

「何にって、えっと、童話…? あ、じゃなくてミステリーの話よね。えっと…」

何があっただろうか、と千鶴は最近見た映画の内容を考えてみるが、あまり興味を引くようなものは無かったはずだ。

「童話か…、趣味が良い」

「え、ええ? でも、童話ってミステリーと全然関係ないじゃない。そりゃ、残酷なものも多いからホラーとしても扱われるけど…」

「ハーメルンの笛吹き男」

「ハーメルンの笛吹き男って、あの鼠を退治したのに謝礼を貰えないから村の子供を連れてったってアレだろ? それがどうしたってんだよ?」

片肘を長机について、祐介は訝しげに霧島を睨んでいる。
霧島はその視線を受けながら、軽く嘆息して、

「1284年、ヨハネとパウロの日、6月の26日。
あらゆる色で着飾った笛吹き男に、130人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され
丘の近くの処刑場でいなくなった」

「はぁ?」

「ドイツで発見された碑文にそう書かれていた。これはおよそ1602年から1603年に記録されたとされているが、それ以外の記録にも大人数の子供が行方不明になったことははっきりと記されている」

「つまり、ハーメルンの笛吹き男の話はただの童話じゃないってこと?」と、夏希が霧島の話を纏める。

霧島は無言で頷き、時計を見て立ちあがる。

「ちょっ、ちょっと、霧島君! 話がまだ途中じゃない!!」

「言ったでしょう。俺は今日バイトがあるんです」

霧島は腕時計を確認し、

「もう行かないと間に合わなくなる。それに、此処はミステリーやオカルト好きの集まり何ですから、興味があるならご自分たちでどうぞ」

と言って部室を後にした。

残された部員たちは霧島のあまりといえばあまりな態度に暫く呆然としていた。