「ディベートぉ? 何だよ、それ」

霧島の言った一言に眉を吊り上げて反応したのは、夏希の左隣に座る森祐介だった。
祐介の質問に霧島はチラと視線を向け、抑揚のあまり感じられない声音で,

「それは、ディベートの意味を聞いているんですか? でしたらディベートとは討論、つまり話し合いという意味ですが」

と何処まで本気なのか、つらりと答える。

霧島の解答で馬鹿にされたと思ったのだろう――そう思っても仕方ないのだが。祐介は机に両手をついて立ち上がり、今にも霧島に掴みかかりそうな勢いで睨み、怒鳴る。

「てめっ、どんだけ人のことバカにしてるんだよ、お前は!」

「馬鹿にしてるつもりはありません。ただ、聞かれただけに答えただけです。それより、話をつづけても?」

立ちあがったことで霧島の目線よりも上になった祐介に、気後れすることもなくポーカーフェイスを崩さずにはっきりと祐介を見つめて霧島は問う。

そんな霧島に怒っていた筈の祐介の方が逆に拍子抜けしたようで――というよりは、あまりの反応の薄さにどうしたら解らなくなったという方が正しいだろう――思わず「あ、ああ…」と生返事をして座ることになった。

祐介が座ったのを確認すると、霧島は何事もなかったかのように「話を戻すと」と言って話を始める。