その日、神白大学にあるミソルト同好会――誰がつけたのかミステリーとオカルトを合わせた造語だそうだ――の部室内は不穏な空気に満ちていた。

雰囲気を出す為に持ち込まれた暗幕と、仄かに室内を照らす白熱電球。代々の先輩たちが持ち込み寄付していったオカルトと呼ぶに相応しい怪しげな蔵書や頭骸骨にミイラの手――勿論これらはレプリカだが――等が所せましと並ぶ棚に囲まれた狭い部室。

その中央に置かれる、良く会議室なんかで見る長机を部員四名と、部長である金城夏希が連れてきた――というよりは無理に引っ張ってきた――客人が取り囲んでいる。

夏希が上座の中央に座り、その両隣を三年生の部員。夏希の向かいには客人である霧島昇が座り、残る一人の部員は客人にお茶を差し出していた為霧島の傍に座ることもできず立っているという配置だ。

「もう一回、言ってくれる…? 霧島君」

「同好会なんて大そうなものを作っておきながら、やることは所詮映画やドラマの鑑賞会なのか。そんなものは小学生でも出来る、と。そう言ったんですよ」

怒りに声を震わせながら尋ねる夏希に、地顔がそうなのか不機嫌そうというかつまらなそうな顔のまま、躊躇することなく答えるのは客人であった筈の霧島その人だ。

夏希に問われ、言いなおした霧島の言葉に剣呑だった雰囲気が一気に険悪な雰囲気へと様変わる。

「あのっ…!」

「何? 見て解ってると思うけど、今大事なとこなの」

幾らなんでもこの雰囲気は不味い、と声を発したのは霧島の隣に居た、この春にこれまた夏希が人数確保の為に無理に連れてきた一年生、高原千鶴だ。
夏希の誘いを断り切れず、「ミステリーもオカルトもどちらに対しても全く知識が無くても良いのなら」とミソルト同好会への興味も薄いまま3ヶ月間、一部員として何とかやってきた千鶴はその気の弱さ故か、夏希の一睨みに思わず身体を強張らせ、姿勢を正す。