前日の一件があっても、歩の指導方針は変わらなかった。
「だーかーら! これは先週やっただろうがバカ女!」
私の方も十数年で築き上げたキャラを急に変えることはできない。
「うるっさいなぁ。先週やったって覚えてないものは覚えてないのよ!」
ギャーギャー喚きながら戦う二人は、さぞ近所迷惑だろう。
すぐ隣が歩の部屋で良かった。
意地になってガリガリ問題を解く。
響子さんを思い出して力むと、シャープペンシルの芯がポキッと折れた。
ため息をついてカチカチと新しい芯を出す。
再び手を下ろすとまたポキッと折れる。
イライラはマックスになって、私はシャーペンを放った。
「おい、何イライラしてんだよ?」
歩は訝しげに私の顔を覗いてくる。
顔が近くて、心臓が踊りだした。