引き寄せられたのは良いとして、力が強すぎて歩の胸に鼻をぶつけてしまった。

 地味に、痛い。

「うん。大丈夫。これから連れて帰るから……」

 じわじわ鼻の痛みが緩和されて行く中、歩は電話を切った。

 歩のダウンジャケットに私のファンデーションが薄く移ってしまっている。

 何となくいけないと思ってそれを拭おうとしたところに別の力が加わって、私と歩は引き離された。

「何だよ、お前」

 引き離したのは悠晴だ。

 私の腕を掴んだまま歩を睨んでいる。

 歩は見下すような冷たい目をして悠晴を見た。

「こいつの家庭教師だけど」

 ヘタレだった歩が怯まないのに驚いた。

「ああ、なるほど。さっきまでアンタの話をしてたところだよ」

 私の手を離し、歩ににじり寄る。

 ケンカをふっかけるんじゃないかとヒヤッとした。