しつこい母から、私が歌うごとに着信が入った。

 電話が鳴る度に光るイルミネーションが鬱陶しくて、悠晴が歌っている間に携帯を裏にひっくり返す。

 それでも振動だけはお尻に伝わってくる。

 私は電話機を鞄のポケットに押し込んだ。


 カラオケは二時間。

 終わる時間は歩が来る時間。

 私がすっぽかしたと知ったら、歩はどのように行動するだろうか。

 何を言うだろうか。

 何を思うだろうか。

 私に構っている暇があるなら響子さんと過ごせばいいのに。

 高校生の分際で、女子大生にカッコつけて金なんて稼がなくたっていいじゃない。

 そもそも家庭教師なんて、付けてくれと頼んだ覚えはない。

 自分だってヤバいと思っているから、数学の授業だって真面目に聞くようにしている。

 家庭教師なんて必要ない。

 歩なんて必要ない。