「いいよ」

 ピピピピピッ

 私の返事と共に曲が入り、伴奏が始まる。

 互いにマイクを握り、画面を見つめる。

 二人同時に歌いだした時、ポケットに入れている携帯が震えだした。

 バイブレーションのテンポから、それが電話であるのを判断するのはたやすい。

 どうせ母だ。

 歩が来るのにまだ帰宅しない私を叱責するためにかけてきたに違いない。

 誰が出るもんか。

 私は震えたままの携帯をポケットから取り出し、着信元を確認せずにソファに放り投げた。

 歌は続く。

 そろそろ良いところだ。

 できるだけ上手に歌いたい。

 私は曲に集中し、マイクを右手でぎゅっと握りしめた。

 力みすぎた結果か見せ場の高音を外してしまい、苦笑いを悠晴に向ける。

 曲は私の失敗なんてなかったかのように流れて行った。