母と歩の会話に入ることはせず、ひたすらムシャムシャとマドレーヌを頬張った。

「じゃ、遅くならない程度にゆっくりしてってね」

「うん、ありがとう」

 母が出て行った瞬間、空気の抜けたように歩の表情が変わった。

 どちらかといえば、素の顔のほうが好きだ。

 爽やか笑顔で微笑まれてもきっと鳥肌が立つ。

「で、結局明日は大丈夫?」

「大丈夫だけど」

「そ。じゃあ携帯教えといて」

 ジーパンのポケットから取り出された携帯。

 私もベッドから引っ張った。

 赤外線で情報を交換する。

 今まで街で出会った人と交換する時も、こんなに受信時間が長く感じたことはなかった。

「変なアドレス。バカ丸出し」

「あんたみたいに意味わかんない単語よりマシよ」