「テストでこんなに時間かけてられないぞ」

 歩の視線が私に向いてきたから、慌ててノートの方を向いた。

 何度も消しては書き直した私の回答に対して、歩の回答はどこにも消した跡がなかった。

 計算式も私より少なく、きっと無駄がない。

「うるさいな。慣れれば大丈夫だもん」

 何これ。

 モヤモヤする。

 首の後ろとか、鼻の奥とか、ムズムズする。

「あと十分しかないな。次にも進めないし、どうすっかな」

「じゃあもう終わりでいいじゃん。頭使ったから疲れたし」

「頭使って二十分以上もかけたわけ?」

「あんたマジムカつく」

 歩の憎まれ口が、なぜか私の心を愛撫する。

 この感覚、覚えがある。

 何?

 やだやだ。

 こんなやつ、好きになんてなりたくないのに。

 心の中の自分と戦っていると、歩がパタンと教科書を閉じた。