腹立たしくも寝息を立てている歩を起こそうとベッドに移動する。

 人のベッドで寝やがって。

 図々しいヤツめ。

 口を半開きにしてスースーいわせている。

 視線が唇を捕らえると、この間の記憶が蘇った。

 車でキス。

 この口で、大人の女の人と……。

 ほのかに色づく薄い唇。

 寝顔はブサイクなはずなのに、半開きの口はなんだか色っぽく感じる。

 まじまじと見つめて、何か悪戯でもしてやろうかと考えていた時。

 ヴー ヴー ヴー……

 けたたましく机の上で震えだした私の携帯のバイブ音に、歩はパチッと目を開いた。

 顔を覗いていた私。

 歩の顔まで、あと30センチというところだろうか。

 バッチリ目が合い、お互いに固まったのがわかる。

 この距離、微妙。

 携帯は私たちが固まっている間に、静かになった。