「わかったよ」

 低く、甘い声で続ける。

「明日、そっち行こうか?」

 私は首を横に振った。

「それじゃ遅い。気になって眠れない」

 強気にわがままを言ってみる。

 歩は困った顔をして笑った。

「今からじゃさすがに家出してもらえねえなぁ」

「……そうだよね、ごめん」

「だから、みんなが寝静まった頃、そっち行ってもいい?」

 私は首を縦に振った――。




 時刻は深夜2時。

〈出発します!〉

 彼からのメールを合図に、私は忍び足で一階へ降りた。

 カチャ……

 どんなに静かに開けても、ドアからは音がする。

 ヒヤヒヤしながらもゆっくりドアを開くと、目の前にメガネをかけた歩が立っていた。