低く優しく、歩の声が私を問いただす。

「……無理。説明なんてできない」

「殴っといてそれはないだろ」

 向こう側から注がれる強い視線。

 私は電話を左手に持ち替えた。

 軟骨のピアスが、カチリと鳴った。

「今更説明なんて聞いて、どうするつもりよ?」

「うーん。納得するつもり、かな」

「もう関係ないじゃない。新しい彼女がいるんでしょ……?」

 先日見たあのシーンを思い出して、少し言葉に詰まる。

「いないよ」

 歩ははっきりとそう告げた。

「意味わかんない。だったらこの間一緒にいた子は何なのよ?」

 夜中なのに、私の声に張りが出る。

 家と家の間に響き、歩は向こう側で「しーっ」と人差し指を立てた。

「一緒にいた子?」

「そうよ、一緒に家から出てきてたじゃない」

「あ、あーはいはい」

「そっちこそ説明しなさいよ」

 声を抑えてそう言うと、歩がふふっと笑った。