そして何よりも、今更泣き顔なんて、見られたくない。

「ごめん……何でもないから」

 そう言って私は、ただ自分のコーヒーを眺めた。

 砂糖とミルクはもう十分に混ざっているのに、私はスプーンを回し続けた。

「何でもないって、泣いてんじゃねーか」

「気にしないで」

「無理だろ」

 歩は私の隣に移動してきて、無意味に回し続けている右手を止めた。

 スプーンを奪い、ソーサーに戻す。

「どうした? 言ってみ?」

 低くて詰まるような声で囁かないで欲しい。

 優しくしないで欲しい。

 ティッシュが差し出され、私はそれで乱暴に目を拭った。

 やっと視界がクリアになって、ティッシュをゴミ箱へ放る。

 ナイスシュート。

「何でもないの。ごめんね」

 そう言って笑顔を見せると、歩の手が私の右肩に触れた。

 抱きしめられる……?

 経験上そう思ったが、一瞬だけ力が入っただけで、手は私から離れていった。