「そう。それなら安心だわ。ねぇ、恵里?」
「うん。大丈夫だと思う」
私も母に返事をする。
「歩君、受験頑張ってね」
そう言って母は部屋を出て行った。
二人きりの部屋に、生ぬるい嫌な空気が流れる。
「歩、今までありがとね」
すごく言いにくかったけど、言わなければならないと思った。
「礼なんていらないよ。仕事なわけだし」
歩はふと笑ってコーヒーをすすった。
この日も無駄話をすることはなく、歩はそそくさと帰っていった。
「マジありえない。二股とか、信じらんない」
「それ、あたしに対する厭味?」
ファストフード店で、私は聡美の愚痴を聞いていた。
聡美はカップに挿したストローをガシガシ上下に動かして、ストレスの捌け口を氷に求めている。