「そうだったんだ……」
「うん。歩、ああ見えて意外にやり手なんだな」
春樹君は男の気持ちがわかるのか、響子さんを傷つけた歩に感心するような表情だった。
私と歩のことを知らない春樹君は、別れ際にこんな質問を投げかける。
「悠とはうまく行ってる?」
響子さんの話題の後に聞かれたくなかったが、答えないわけにもいかない。
「うん、まあね」
そう。私たちはうまくいっている。
だからこそ、知りたくなかった。
歩が私のことを考えて響子さんと別れたなんて。
夕食後、私はそっとカーテンをめくってみた。
向かいの窓には、左下に影が見える。
申し訳ない気持ちは胸いっぱいに広がった。
「せめて謝らなきゃ」
そう思った私は、カーテンを手放して携帯を握り締めた。