「ぷっ」
「笑うなよ」
食べたい、なんて。
彼らしい言い回しに吹き出すと、歩がしたように後ろから抱きしめられた。
「まだダメ?」
耳元から聞こえる声は、いつもの声より少し高い。
こういう時、歩の声は低くなる。
不謹慎なのはわかっているが、歩と比べてしまう。
こんな時にあいつのことなんて思い出したくないのに。
「いいよ」
自分で納得してそう言ったものの、いざ服を脱がされてみると気付かれるんじゃないかと思って少し怖い。
ふと目で左胸を確認すると、もう跡は消えているのにあの日の感覚が蘇ってきた。
こんな時に違う男のことを思うなんて、私は酷い女だ。
いや、酷いのは歩だ。
跡なんてつけて、私の気持ちを引きずらせて。
全部あんたのせいなんだから……。
悠晴は「俺のモノっていう印」と言って、右胸に跡をつけた。
似たような行動に、歩のことがバレたんじゃないかと思った。