後ろの歩を見上げると、彼も私を見下ろしていた。

「イケメン八重歯、騙す覚悟ある?」

「ぷっ、何そのあだ名」

「名前忘れたもん」

 お互いにクスクス笑い、隙をついて唇を奪われた。

 罪悪感は気持ちと共に溶けていく。

「じゃ、俺帰る」

 それから歩はあっさり私を手放し、ベッドに放置していたジャケットを羽織る。

 温もりを失った背中が寂しい。

 顔には出さない。

 出しちゃいけない。

「うん、またね」

 部屋を出ようとしたが、歩は一旦足を止めた。

 見送りで一緒に出ようとしていた私は、危うく鼻を打つところだった。

「あのさ、俺……」

「なに?」

「やっぱいいや」

「あっそ」

 言いかけてやめるなよ。

 でも私は追求せずに彼を見送った。