「お母さんに言えばいいじゃない」
素っ気なくそう言って、コーヒーをすする。
歩はそれを気にすることもなくニヤニヤと笑ってケーキを頬張っている。
「ニヤニヤしないでよ。気持ち悪っ」
「ふふふっ」
言い返すことなくまた意味深に笑う。
そして、コーヒーをブラックのまま飲んだ。
「これ、恵里が作ったろ?」
自信満々に言ってのける歩。
驚いた。
母も私が作ったと言わなかったのに。
髪に匂いが付いてしまったのを気にして、ヘアムースで消したりもした。
なのに……。
「何でわかったの?」
「味がいつもと違うから」
「ケーキ自体が違うじゃない」
「そうなんだけどさ。あるんだよ、おばさんの味が。今日のはちょっと違う」
確かめるようにまた一口。
味でわかるなんて、予想外だった。