「二人とも、時間よ~」

 ドアが開き、コーヒーの香りが部屋に広がった。

 お盆の真ん中には冷えたガトーショコラ。

 気の利く母はさりげなくそれをテーブルに置いて去っていった。

「今日もうまそうだな」

 あたしも一緒に作ったんだよ。

 なんて恥ずかしくて言えない。

 テーブルに座り、コーヒーに砂糖とミルクを入れる。

 スプーンでクルクル混ぜながら、視線は目の前の歩。

 歩はいつものように嬉しそうにフォークでケーキをつつく。

 一旦縦に切って、フォークに刺し……口に、入れた。

 もぐもぐ……

「ん?」

 何かに気付いたような顔をする。

「どうしたの?」

 何か失敗した……?

 顔をガン見すると、歩もこちらを向いた。

 そして、にっこり。

「うまいよ」

 キューン。

 って、こんな時に使うんだと思う。