翌日、5日早いバレンタインデー。

 母とガトーショコラを作る。

「チョコはもっと細かく刻んで」

「え? これ以上?」

「コラ! ハンドミキサーはスイッチを切ってから取り出すのよ!」

 一足早くギャーギャー騒がしくなった桐原母娘は、父が帰宅したことに気付かぬまま作業を続けた。

 七時も近くなり、焼き上がったガトーショコラ。

 後は冷まして冷蔵庫に入れるだけ。

 母に任せ、私は部屋で歩を迎える準備をした。



 慣れない作業に疲れた私は、授業中、いつものように覇気を奮い立たせることができなかった。

「恵里、今日は大人しいな」

 歩はそれを気持ち悪がって渋い顔をする。

「疲れてんのよ」

 頭の二割を使って数学を考える。

 残りの八割でケーキを食べた時の歩の反応を想像する。

 美味しいと言ってくれるだろうか。