「歩、あたし責任取ってあげる」

「え?」

 少し歩に近づいて、言った。

「今夜だけ、歩の愛人になる」

「お前、何言ってんの?」

 歩が響子さんと別れる気がないなら……せめて今夜だけ。

 甘い思い出が欲しい。

「あたしにキスした責任、取りなさいよ」

 歩もこちらにやってきて、私の前で目を凝らす。

 近眼でメガネもさっき床に放ったからだろうか。

「本気で言ってる?」

 私が頷くと、歩の手が私の顔に伸びてきた。

「後悔……するなよ」

 再び歩は私に跨った。

「あんたこそ。響子さん騙す覚悟、できてんの?」

「キスしたときから覚悟はできてる」

 顔が近い。

 これだけ近ければ、メガネやコンタクトがなくたって私が見えるはず。

 あたし、これから歩と……。

 そう思うと、やっぱり鼓動が全身を揺らした。

 どちらからともなく重なった唇が、熱い。