涙を拭くとき、椿からもらった恋人の証が涙に触れた。
「待っていて、椿…」
潤んだ瞳のまま空を見上げる。歪む世界がどこか心地よい。
もうすぐ会いに行くから…。
天城高校があるのはここからひとつ先の駅だ。
駅のホームには新入生らしき人々でごった返している。
ぎゅうぎゅう詰めになった車両に乗りながらふと思った。
「女性専用車両にしとけばよかった」と。
でももし隣に椿がいたら、こんなこと思わなかったのかもしれない。
「ふぅ…」
一駅5分って絶対ウソよ。
苦しくなった呼吸を整えて、東口に向かう。
高校まで一本道。
真っ直ぐすぎる道が妙に嫌味に見えた。
その道を希望溢れる笑顔で歩いていく新入生たち。
私は他の人たちのように輝いて歩いては行けない。
堂々と太陽の下を歩ける人間ではないからだ。
ねぇ、もしこの高校に入学していなかったら…私は一生太陽の下を自信持って歩いていなかったと思うの。