広がるのは屈託のない青い空だった。
浮かぶ白い雲はまるで綿あめみたいで、勝手に雲は甘いものだと思っていた。
閉まるカギの音。
「何かったらいつでも電話してきなさい。妃菜子は一人じゃないから」
まっすぐと父親の顔を見る。
少し潤んだ瞳に、皺が刻まれた顔。
そんな表情に椿を照らし合わせていた。
椿を思い出すと涙が出てくる。あの不気味に光る銀色ナイフと生ぬるい液体がフラッシュバッグしてくる。
「…うん、うん。ありがとう…じゃあ行ってきます」
私はすべてを思い出す前にぎゅっと目を閉じた。
椿だけでいい。
椿だけを過去から思い出したいのに…。
なぜ余分なものを思い出してしまうのだろう。
私は鞄の中からあるものを取り出した。
先日届いたもの。
白い便箋はあなたの罪を表しているよう。
“妃菜子へ”