時間が経過するのはとても早い。
季節は変わり、もう春になっていた。


周りの風景も変わり、人々はあの事件のことを忘れているようだった。

私はあれから父親に引き取られ、一緒に暮らしている。
だが今日から父親が海外赴任となり家を空けることになった。
私は一人でこのマンションに住むのだ。

一人は楽。
何も考えなくていいから。



「ごめんな、妃菜子。一人にしてしまって。」




姿見に映る父親。
あなたの顔を見るのはすごく久しぶりなのだけど不思議と生活にもすぐ慣れた。
戸惑いもなく、ただ…普通に。


「大丈夫だよ。ありがとう…」


「そろそろ行こうか…」




この半年で私は数キロ痩せた。標準体重より遥かに軽い私の体は春風によって吹き飛ばれそうだ。

でも力強く地面を踏む。



生きていると実感するように。

道端に咲く、小花のように。