バックミュージックの音に掻き消されていく会話。
私の記憶はここでストップをした。
事件当時のことを思いだそうとしてもここまでしか思い出せないのだ。
月の反射で光る銀色ナイフと生ぬるい赤い液体。
真っ赤になった手と、私に優しく口づけをするあなた。
私の頭の中で記憶することができたのは、ほんの数個しかない。
あとは思い出したくもないわ。
椿、少しの間お別れよ。
また会いに来るから。
この薬指に存在する指輪をあなただと想って、強く強く生きていくから。
「…妃菜子?準備はできたか?」
閉じていた瞼をゆっくりと開けていく。
視界に広がったのは憧れだった制服を着ている私だった。
姿見に映し出された私は少し大人へと近づいているように思えた。
「準備できたよ…」
あの事件からもう、半年が経過していた。