台風が上陸したのは深夜だった。
今でも覚えている。
パトカーに乗って警察署に向かう途中、突風と豪雨が街を破壊していくのを。
まるで私の人生のように凄まじいものだった。
真っ赤に染まる私の手は、愛しい椿の愛の証のよう。
母親の血が情熱を表しているなんて、どこか笑える。
「…あの子は正直だったね」
「え…なんて?」
突然、隣にいた新米刑事がこう呟いた。
「あの状況であんな冷静で、でも真っ直ぐで。普通なら動揺して取り乱すのに質問にもちゃんと答えていた。それって自分の犯したことを理解しているからだと思うんだ」
「そう…なのかな…」
「きっとどうしても守りたかったものがあったんじゃないかな。って僕の予測だけどね」
刑事さんの言葉が心に響いていく。
椿は私を守るために母親を殺した。
何度も何度も私は母親を殺そうとしたけど、臆病でできなかった。
勇気者なのよ、あなたは。