神様に私の声は届かなかった。この豪雨で掻き消されてしまったから。
私たちに残された時間はあとわずか。
次々に流れる涙が意味するのは、きっと椿と離れるのが嫌だからだろう。
横たわる母親に涙するのではないと思った。
ほら、最低でしょう?
「いやだ…椿、嫌だよ…。同じ高校行くって言ったじゃん…!一人にしないで…私、椿がいないと死んじゃうよ…」
なんて子供っぽい発言。
自分でも驚いている。
でもこれが私の本音。
私はまだ子供だ。
「…妃菜子、手だして?」
耳元で囁いた椿。
私は右手をだした。
右手は特別だから。
椿と手を繋ぐときは右手だったから。
「俺がいなくなっても大丈夫なようにお守り…つけとくな」
そう言って薬指に指輪をはめた。
小さなハートがついたシンプルな指輪だ。
私の涙の速度は加速する。
「…つ…ばき…」
あと何度、彼の名前を呼べますか。