どくんと心臓が脈を打つ。
緊張しているのかな。
でも何に?
息が上がる。
熱でもあるのかな。
呼吸を落ち着かせてドアノブに手をかける。
やはり真っ暗だ。
開けた瞬間、独特な匂いに気づく。
この匂い…何だろう。
鉄のような…。
朝、家を出たときはこんな匂いはしなかった。
この短時間で何が起こったというのだろうか。
恐る恐る家に入っていく。
まるで不法侵入したような気持ちで。
リビングに近づくにつれ匂いがきつくなっていく。
聞こえ出す、天気予報。
それを聞いたら何故か安心した。
やっぱり母親の仕業か。
「…お母さん?」
リビングのドアを開いて中を覗く。
私は信じられないものを見てしまった。
信じたくもなかった。
「え………」
床に流れる液体。
色は…赤。
倒れている母親。
ぴくりとも動かない。
テレビの光りで反射をする、銀色ナイフ。
無表情の―…
「…椿…」
…あなたがいた。