精一杯生きていくから、見ていてね。
また会ったら「成長したね」と言ってくれるかな。
それまでに笑顔の練習をしておくから。
心から笑えるように。
あっという間にもう家に着いてしまった。
相変わらず暗い家。
隣の家には明かりが灯っているのに、私の家はまるで存在していないかのよう。
比べたら、また古傷が痛んだ。
「じゃあ、またな。明日は学校来いよ?」
「うん…」
最後に私を見つめて笑った椿。
離したくない手を、ゆっくり椿は離していった。
一瞬にして消える温もり。
もう一度握ってくれたのなら、逃げる勇気がでたかもしれない。
でも椿は握ってはくれなかった。
空いた右手。
左手には彼岸花。
腕には痣。
脚には切り傷。
頬は赤色。
なんて滑稽な姿なのだろう。
足もとに視線を落とすと、致命的なボロボロの靴。
私は釣り合っている?
椿の隣に並んでもいいの?
一気に疑問が飛んでくる。
こんな姿…、ハズカシイ。
「妃菜子、あの言葉信じてもいいんだよな?」
「え?なに?」
椿の横顔を見ながら言葉を投げる。
「俺がいれば幸せだって言葉。」
なぜ、このとき気づいてあげられなかったのだろう。