溢れる涙はただゆっくりと頬を流れていった。
零れ落ちる言葉は皐まで届いていた。



椿に会いたい。
でも椿に会えるのは1ヶ月後。面会は1ヶ月に1回と決められているから。
私はあと1ヶ月も我慢しなくてはならないのだ。



「…ひな、こ?」



「会いたいよ…会いたいよ…」



弱音が、どんどんと溢れる。
誰にも見せないと誓った弱い部分が見え始める。



どうして…隣にいるのは椿じゃないの?




「妃菜子…待ってろ。今すぐ俺がお前のとこ行ってやるから」



歪んだ視界に映るのはベランダに足を掛ける皐だった。
距離は1メートル未満。
私たちが肩を並べて歩いていた距離と近かった。


皐は長い脚を使い、平気な素振りを見せて私のベランダに飛び下りた。




ごめんなさい、椿。





今だけ、今だけだから。




誰かの温もりが欲しかった。





「妃菜子、泣くな。俺がずっとずっといるから…」





ごめんなさい、皐。
あなたを今だけ…椿と思ってもいいですか。





「ごめん…胸借りる…」






そして私は皐の温もりの中へ入った。





私たちの運命は、狂いだす。



裏切りのキスから。