朝、起きたら笑顔で母親が私を見つめていてくれたら、私の世界はまた色鮮やかになっていくと思う。
でも、そんな朝は来なかった。
「おはよう」から始まる朝などない。
「おやすみ」から終わる一日などない。
私は一人ベッドで涙を流す毎日。
音や、風や、人が消えてなくなってしまえばいいのにと何度願っただろうか。
欲しいのは、椿のこの温もりだけ。
秋風が私を包み込む。
その拍子に揺れる、彼岸花。
「あなたは幸せ?」と問いかける。
揺れる彼岸花は何も語らず、ただただ、存在だけを表していた。
「妃菜子…そんな悲しいこというなよ。俺がいるじゃん!だから安心しな?」
私の顔をのぞきながら、悲しい瞳を浮かべる椿。
もし、このときこんなことを言わなければ、ずっと椿といられたのだろうか。
真っ暗な世界がさらにダークへと変わった。
あなたがいなければ私は生きていけない。
お願い、戻ってきて。
こう空を見つめて、あなたを想う。
「この世界で椿と二人っきりだったら、幸せなのに…」
なぜ、私はこんなことを言ったのだろうか。
分からない。
分からないくらい、ここから逃げたかったのだろうか。
椿を愛しているからだろうか。
きっとそうだ。
小さな体で、あなたを。
細い腕であなたを。
思いきり愛したかった。